代名詞のthat(thatには形容詞や副詞、接続詞の用法もありますが、ここでは代名詞に話を絞ります)の用法の一つに、名詞の繰り返しを避けるthatの用法があります。that ofの形になることが多いです。注意点を以下に整理します。
1.比較の対象をそろえて明確にする(何と何の比較かを明示する)働きがある
The population of Tokyo is larger than that (= the population) of Osaka. (東京の人口は大阪よりも多い。)
日本語の場合は「東京の人口は大阪よりも多い」で意味が通じますが、英語では、「東京の人口」と「大阪のそれ」(大阪の人口)を比較するために、上のような文になります。すなわち
The population of Tokyo is larger than Osaka.
もし仮に上のような文にすると、「東京の人口」と「大阪」を比較することになってしまいます。もっと唐突な例で説明すれば、「青森県のリンゴと長野県のリンゴの比較」は意味を成すでしょうが、「青森県のリンゴとフランクリン・ルーズベルト大統領の比較」といわれても意味不明(何を尺度に、どのような点を比較したいのか、分からない)だと思います。そのため、第一文のようにthat (= the population) ofを入れて、比較の対象を「人口」同士にそろえます。
※もし、英語を母語としない日本人が、ネイティブとの会話で、“The population of Tokyo is larger than Osaka!”と力説した場合、勢いと気合で&相手もこちらの意図を推測してくれて、ひょっとしたら通じてしまうような気もします(※※)が、当サイトは、正確な英語の解説にあくまで努めます。
※「対等のもの同士を比較する」は、名詞の繰り返しを避けるthatの用法だけでなく、比較級全般にいえます。次の例文をご覧ください。日本語では「彼女の給料は夫より高い」などで意味が通じますが、英語では以下のようになります(※※)。
Her salary is higher than her husband’s . (×than her husband. 彼女の給料は夫より高い。)
Her smile is more friendly than Jane’s.(×than Jane. 彼女の笑顔はジェーンよりもフレンドリーだ。)
※※この点は意外と深いかもしれません。『英文法解説』(改訂3版,金子書房,1991年,p.172)に、以下の解説があります。
これは日本語との関連で日本人に独特の問題かと思っていたが、英米人用の学習文法書にもでているので、英米人にも必要な注意なのであろう。
2.itとの違い
大学受験英語などでよくある質問が(当サイト管理人も、大学院生時代に予備校の非常勤講師をしていた際、受けた質問です)、「大阪のそれ」なのだからthatじゃなくitでもいいのではないでしょうか?というものです。
答えはNoです。もしitをここで使うと、前に出た特定のものを指すのがitの原則の一つなので、「東京の人口は、大阪の東京の人口よりも多い」のような意味(「意味」といってよいのか?)になってしまいます。
3.複数の場合はthose of
The rules of this sport are simpler than those of baseball. (このスポーツのルールは野球のそれより単純だ。)
なお、those ofで「…の人々」を表す場合もありますので注意してください。例えば
those of Asian ancestry
で「アジア系の人々」です。この場合のthoseはpeopleやpersons, individualsを表しています。
4.that[those]の後はofだけとは限らない
The dialect spoken in this town is different from that (=the dialect) spoken in the next town. (この町で話されている方言は、隣町で話されているものとは違う。『ロイヤル英文法』改訂新版,旺文社,2000年,p.200)
The houses around here are larger than those in my town. (このあたりの家は私の町の家よりも大きい。『新マスター英文法』聖文新社,2008年,p.637)
I prefer these paintings to those by great masters. (私は大家の絵よりもこういった絵のほうが好きだ。同上,p.637.当サイト管理人注:prefer(…よりも~を好む)の場合は,このように,thanでなくtoを用いることにも注意)
The students from Brazil speak English better than those from Japan. (ブラジルから来た学生の方が日本から来た学生よりも英語を上手に話す。)
5.次にofが来るときはthat[those]の方が好まれるが、原則的に、thatはthe oneに、thoseはthe onesに言い換え可能
ただし、(1)繰り返す名詞が不可算名詞の場合、oneは使えません。thatを用います。不可算名詞すなわち数えられない名詞なので、one(「一つ」)で受けるのは変だからです。
The poverty of the soil here is worse than that of the next town. (ここの土地の劣悪さは、隣町よりひどい。)
(2)繰り返す名詞が人間の場合、thatは使えません。the oneを用います。
The man I saw was older than the one you met. (私が会った男性は、あなたが会った男性より年を取っていた。)
thisやthatが人を指す代名詞として用いられないことについては、『ロイヤル英文法』(改訂新版,旺文社,2000年)197ページに有用な解説があります。同書は、
Come and meet these over here. (「こっちに来て、こいつらに会いなよ」とでもなりましょうか)
は、軽蔑の表現になることがあるとしています。
ただし、
This is Mrs. Jones. (こちらはジョーンズ夫人です。)
That looks like Tom. (あれはトムみたい。)
Come and meet these people over here. (こちらに来てくれ、この人たちを紹介するよ。)
のように、文の主語になる場合や、形容詞として名詞の前に用いるのは差し支えないと説明しています。また、「3.複数の場合はthose of」で述べたとおり、those ofで「…の人々」を表す場合もあります。