英語の比較級には、異なる人や事物同士を比較するのでなく、同一の人や事物を比較する構文があります(「同一の人や事物を比較」って分かりづらいですが、以下を読んでいただければ「こういう話か」とピンと来てもらえると思います)。
This dress is more comfortable than elegant. (このドレスはエレガントというよりは着心地が良い。)
上の文は、異なる2つのドレスを比べているのではなく、同一のドレスについて、エレガントというよりは着心地が良いと述べています(すなわち同一の事物の異なる特性を比較しています)。
This dress is comfortable rather than elegant.
と同義ですね。
この構文にはer, estの比較変化をする語も原則としてmoreを用いるという特色があります。
This dress is more pretty than comfortable. (「このドレスは着心地が良いというよりは可愛い。」→prettyは通常、prettier, prettiestという変化をするが、この例文の場合はmore prettyの形を取る。)
ただし、①than以下の主語+beを省略しない場合、②不規則変化の語の場合は例外です。
①の例:He is wiser than he is clever. (彼は頭がいいというよりも賢い。)
※昔のことであり、どの書籍に書いてあったか失念してしまったのですが(確か、大学受験の参考書か、または、初めて海外に行く前に読んだ英会話本だったように思います)、cleverは優等生的に「頭が良い」、wiseはおばあちゃんの知恵袋的に「賢い」というニュアンスの違いがある、と本で読んだことがあります。
そのことを思い出して、『ジーニアス英和辞典』(第5版,大修館書店,2014年)を引いてみると、以下のとおり解説しています。
wiseは知識や経験が豊かで「賢明である」の意. cleverは《主に英》, smartは《主に米》で, それぞれ頭の回転が速く「利口である」の意だが, 時にずる賢いことも表す.
話が広がりました。戻します。信頼のできる文法書『ロイヤル英文法』(改訂新版,旺文社,2000年,p.362)は、
moreの形の方がよく用いられ,rather thanの方がさらに自然。
と述べています。上の文(“He is wiser than he is clever. ”)よりも
He is wise rather than clever.
He is more wise than clever.
の方が自然、ということですね。ビジネスや受験、資格試験などで英文を書く際,覚えておけば役に立ちそうです。
②の例:This video is worse than useless. (この動画は役に立たないどころか有害である。この動画は有害無益(※)である。)
※またもや話は広がってしまいますが,「有害無益」という表現にdo more harm than goodがあります。覚えておきましょう。
『ロイヤル英文法』はまた、③「原則として比較変化をしない語や名詞などもこの構文では用いられる」として、以下の2つの例文を挙げています(p.363)。以下の2つの例文は、(ほぼ)同一のものをほかの参考書や問題集でも見かけます。何回も暗唱・暗記して頭に叩き込んでおくと良さそうです。
He was more dead than alive. (彼はへとへとに疲れていた。)
※当サイト管理人注:ほかの文法書(例えば『総解英文法』(美誠社,1970年,p.310)は、類似の例文を「彼は半死半生だった」と訳しています。和英辞典を引くと、more dead than aliveを「半死半生の」としているものが複数あります。「へとへと」と「半死半生」ではニュアンスに差があります。よってこの表現は、ともかく頭に叩き込んでおき、英語を読むなどしていて実際に出くわした際にどう訳すか、どう理解するかは前後の文脈も考慮せねばならない、といったところでしょう。
He is more a journalist than a scholar. (彼は学者というよりはジャーナリストだ。)