絶対比較級とは
比較の対象をはっきり示さないで、あるものを漠然と2つに分けて、そのうちの程度の高い方を表す形容詞の比較級の用法を絶対比較級といいます(絶対最上級については最上級に定冠詞theが付かない場合を参照してください)。
もう少し詳しく理解するために、専門的な文法書を見ておきたいと思います。
『英文法総覧』(改訂版,開拓社,1996年,p.351.強調、当サイト管理人)は、絶対比較級を、「比較の意味をもたず、問題となっている対象が、ある性質を「どちらかといえば比較的多く」持っていることを表す、一種の「ぼかし表現」である」としています。同書はdresses for larger women(大きめの御婦人用洋服)を例に出し、それが「dresses for large womenよりも、ずっと柔らかな表現」だと述べています。
『現代英文法講義』(開拓社,2005年,p.574.下線、当サイト管理人)は次のとおり指摘しています。
年配の人は、old manと呼ばれるのはいやがるが、older manと呼ばれるのには異議を唱えないかもしれない。olderは、oldほど年とっていないように思われるからである。(中略)原級を用いた表現より丁寧な印象を与える。商業関係者が絶対比較級を多用するのは、この効果のためである
上の引用箇所で下線を引いたうち、「olderは、oldほど年とっていないように思われる」は、英語を母語としない日本人にはちょっと分かりづらいようにも思います。この点について、『ロイヤル英文法』(改訂新版,旺文社,2000年,p.364)は、the younger generationという表現は、1つの世代(generation)を大きく2つに分け、若い方をyoungerで示すものであり(年配の方はolder)、その大きな分け方であるthe younger generationに含まれる一部がthe young generationである旨を解説しています。
この解説に従って考えると、the young generationの方がthe younger generationより若いことになります。同様に、the old generationの方がthe older generationより年を取っていることになり、上記『英文法総覧』や『現代英文法講義』の説明が一層理解できます。デパートの売り場の看板やポップは、絶対比較級になりそうです。
絶対比較級の特徴
絶対比較級には次の特徴があります。
1.than…の形を取らない。
People worry about the rising cost of higher education. (人々は高等教育の費用の値上がりを懸念している。)
2.名詞の前に置かれることが多い。
The education he received is higher.
よりも
He received a higher education. (彼は高等教育を受けた。)
の方が自然。『ロイヤル英文法』(改訂新版,旺文社,2000年,p.364)は“This is a higher class hotel.”(ここは高級ホテルです)は正しく、“The class of this hotel is higher.”は誤りだと言い切っています。
3.muchなどで強調することができない。
通常、例えば以下のように、比較級の前にはmuchなどを付けて強調することができますが、絶対比較級の場合はそれが不可とされています。
Mike is much stronger than Tom. (マイクはトムよりずっと強い。)
参考:通常、比較級の強調や修飾に使われる語句の例
much, very much(←比較級の強調はveryではなくmuchですと最初は習うとと思いますが、very単体ではなく、このようにvery muchという形もあることに注意), far, by far, far and away, a lot, lots, even, still, a good deal, a great deal, a bit, a little bit, considerably, rather, somewhat, any, no, way, many more+可算名詞, much more+不可算名詞, ever
比較的珍しいものも上記には含まれています。いくつか例を挙げておきます。
Mike is very much stronger than Tom. (マイクはトムよりずっと強い。上記のとおり、very単体ではなく、このようにvery muchという形もあることに注意)
Mike is somewhat stronger than Tom. (マイクはトムよりいくらか強い。)
Mike is a lot stronger than Tom. (マイクはトムよりずっと強い。)
Mike is stronger than Tom, but George is even [still] stronger than Mike. (マイクはトムより強いが、ジョージはマイクよりさらに強い。)
I can’t wait any longer. (私はもう待てない。)
I can walk no further [farther]. (もうこれ以上歩けない。『新英和中辞典』第7版,研究社,2003年)
4.対になった言い方が多い(本エントリー「絶対比較級とは」参照)。
the younger generation — the older generation (若い世代 — 年を取った世代)
the lower animals — the higher animals (下等動物 — 高等動物)
the upper reaches of a river — the lower reaches of a river (川の上流 — 川の下流)
5.「比較的」、「かなり」と訳す場合も多い。
the brighter side of life (人生の比較的明るい側面←当サイト管理人注:前後の文脈にもよりますが、「比較的」と訳すことができます)