当サイトは通常、白黒をはっきりさせるエントリー(「この点はこうなので、間違えないよう注意しましょう」のようなエントリー)を投稿しています。ですが今回は、「この点は文献ごとに異なります」という投稿をあえてしてみます。すなわち「than any otherの次は必ず単数形か?複数形も許容されるか?」です。
そもそも、形容詞としてのother(ほかの、別の)は名詞の複数形を直接修飾するか、または、no、any、some、one、theなどの冠詞もしくは冠詞相当語を伴って名詞の単数形や複数形を修飾します(※)。例えば次のとおりです(otherには形容詞用法のほかに代名詞用法などがありますが、本エントリーでは形容詞用法に絞ります)。
other people(ほかの人たち)
three other girls(ほかの3人の少女)
some other time(いつかまた)
※冠詞もしくは冠詞相当語を伴わず、 単数形を直接修飾するときには another を用います。anotherの原義は「もう一つの(an)別の(other)」です。
本エントリーでは、上記のとおり、than any otherについて考えてみたいと思います。
『新英和中辞典』(第7版,研究社,2003年)や『ジーニアス英和辞典』(第5版,大修館書店,2014年)のotherの項には、“Any other question(s)?”、“Do you have any other question(s)?”という用例が載っています。また、Googleを“any other question”で検索しても、“any other questions”で検索しても、膨大な件数がヒットします(半角のクォーテーションマーク(二重引用符) 「 “” 」でキーワードを囲んでGoogle検索をすると、入力したキーワードの順番で完全一致検索ができます)。any otherの次には単数形が来ることも、複数形が来ることも、どちらもあるようです。
ところが、単にany otherでなくthan any otherとなると、文献によって論調が異なります。『総解英文法』(美誠社,1970年,p.313)は、than any otherの次は単数名詞だと明記しています。
一方、上記『新英和中辞典』の、“Mary is taller than any other girl(s) [the other girls] in the class.”という用例の箇所には、「any other に続く名詞は単数を原則とする」とあります(引用箇所の太字は当サイト管理人による。以下同様)。
上記『ジーニアス英和辞典』でも、“I like roses better than any other flower.”という文を説明する箇所で、次のとおり述べています。
… than any of the other flowers. との混同で× … than any other flowers. ともいうことがあるが, 誤りとされる. than any other の後では単数名詞を使うのがよい
ちなみに、ビートルズの歌にも次のような一節があります。「ほかの男」は複数いそうなものですが、than any otherの次は単数形guyを用いていますね。
If I were you I’d realize that I love you more than any other guy(“No Reply”)
(当サイト管理人の訳:もし僕が君だったら、ほかのどの男よりも君を愛していると気づくのに。→僕より君を愛している奴なんかいないよ。)
以上の文献を読むかぎり、基本的には、than any other に続く名詞は単数形が正しいといえそうです。ただし『新英和中辞典』や『ジーニアス英和辞典』は、「を原則とする」、「ともいうことがある」と述べており、複数形を絶対に否定しているとまではいかないように見えます。
論調がさらに異なる文献もあります。『ロイヤル英文法』(改訂新版,旺文社,2000年,p.368)は、“Exxon-Mobil is bigger than any other company in the world.”という例文の後で、次のとおり述べています。
くだけた言い方ではthan any other companiesのようにany otherの後に複数形を用いることもある。
『現代英文法講義』(開拓社,2005年,p.577)に至っては、次のとおり、than any other+複数形の用法を認めています。
主語が複数の場合は,「any other+複数名詞」になる.
American farmers produce more individually than any other farmers in the world.
(アメリカの農場主は、世界のほかのどの農場主よりも個人個人の生産性が高い)
実際、“than any other”でGoogleを検索すると、英語で書かれたページで、than any otherの次に複数形を用いているページも見つかります。それが英語として正しいかどうかという点については、以上のとおり、文献ごとに見解が異なります。
本エントリーは、『公式TOEIC Listening & Reading 問題集6』(国際ビジネスコミュニケーション協会, 2020年)「TEST1 PART5」の120(p. 43)にヒントを得て、解説しようと考えた事項です。than any otherの次に来るのは単数形か?複数形もOKか?がそこで直接問われているわけではなく、問題を解くのには支障がない構成になっていますが、興味深いので取り上げる次第です。