使役動詞let, make, have, get, help:「…に~させる」など

「…に~させる」という使役などの意味を表す動詞にはlet, make, have, get, helpなどがあります。本エントリーではそれらについて解説します。

はじめに:各語のニュアンスと目の付けどころ

定番の文法書『ロイヤル英文法』(旺文社,改訂新版,2000年,p. 389)は、let, make, haveのニュアンスの違いを次のとおり説明しています。

letは「自由に~させておく」という容認を、makeは「無理にでも~させる」という強制を表す。また、haveは「~してもらうようにもっていく」という手はずを表す。

makeが「(無理にでも)…させる」というニュアンスであるのは、大学受験の英語を勉強していても出てきます(受験英語を割とやり込んだ場合かもしれません)。

letも事情は同様なのですが、letの場合はさらに、ビートルズの歌に“Let it be”があります。「あるがままに」と訳されたりします。直訳的に和訳すると「それ(特に指すものはないか、あるいは、事情・状況を漠然と指すitかと思われます)をあるがままにさせておきなさい」とでもなりましょうか。このことからも、上の説明は納得です。

“I let him go.”は「(彼が望んだので)私は彼を行かせた。」、“I made him go.”は「(彼は行きたがらなかったが)私は彼を行かせた。」のようなニュアンスになります。

haveも、日本語で「持っている」なので、直感的ではありますが「手はず」が腑に落ちるように思えます。

以下、let(make, have, get, help)+目的語の次が原形不定詞/過去分詞/現在分詞/to 不定詞のどれか、および、それぞれの意味を押さえていきましょう。

let

let+目的語+原形不定詞(※)で「…させる」の意味を表します。

原形不定詞とは、動詞の原形をそのまま用いるものです。toのない不定詞、または単に原形と呼ばれることもあります

例1:He won’t let anyone enter the room. (彼はその部屋に誰も入れようとしない。)

例2:My father let me drive his car. (父は私が父の車を運転するのを許してくれた。)

例2のletは過去形です(現在形ならMy father letsになります)。letは不規則動詞で、現在形、過去形、過去分詞ともにletです。

例3:Let me try once more. (もう一度やらせてください。)

letの受動態は極めてまれで、be allowed toなどを用いるのが普通であるとされます(『ロイヤル英文法』旺文社,改訂新版,2000年,p. 389)。

make

1.make+目的語+原形不定詞で「…させる」の意味を表します。

I made him wait for a while. (私はしばらくの間彼を待たせた。)

受動態では原形不定詞がto不定詞に変わります。

He was made to wait for a while.

2.make+目的語+過去分詞の用法もあります。お決まりの例文として次のものを暗記しておくとよいでしょう。もちろん、主語や時制などは文脈に応じて変化します。

I could make myself understood in English.(私の英語は通じた。/自分の言いたいことを英語で伝えることができた。←直訳すれば「私は英語で自分自身を理解させることができた」。)

have

1.have+目的語+原形不定詞、またはhave+目的語+現在分詞使役(…させる)や容認(どうしても…させる/…させるわけにはいかない)、経験・被害を表します。

(使役)I had my secretary print out my e-mail.(秘書にメールをプリントアウトさせた。『ジーニアス英和辞典』大修館書店, 第5版, 2014年)

(使役)He had a taxi waiting. (彼はタクシーを待たせてあった。)

(容認)I won’t have you talk to  me like that. (私はあなたがそんな口を利くのを許さないよ。)

(経験・被害)We’ve had this happen many times. (こんなことはこれまでに何度も起こった。『ロイヤル英文法』旺文社,改訂新版,2000年,p. 390)

(経験・被害)He got injured, but he had it coming. (彼はけがをしたが、自業自得だ。(「彼がそれ(けが)を来させた」→自業自得だ、当然の報いだ、自分でまいた種だ))

※上の例文から連想されるものとして、“Who are you to talk to me like that?” (私にそんな口の利き方をするなんて何様だい?)も覚えておくとよいでしょう。 . . . you to talk . . .のtoは、判断の根拠・理由を表すto不定詞の副詞的用法(「…するとは」「…するなんて」)です。

2.have(get)+目的語+過去分詞で使役・受動(…させる、…してもらう)や受動・被害(…される)を表します。くだけた言い方では have の代わりに get を使うことが多いです。

(使役・受動)I had my hair cut. (髪を切ってもらった。)

→大学受験英語などで、初心者が、「髪を切る」を“I cut my head.” (頭を切断した(??))とやってしまいがちで、「そうでなく、上のように言うのだよ」と先生に直されるお約束の?事項です。cutは不規則動詞で、現在形、過去形、過去分詞ともにcutですね。なお、以上で話はほぼ尽きていますが(大学入試問題をはじめ、試験で見かける“I had my hair cut.”は、ほぼ全ての例で、上記の意味で出ますが)、同じ“I had my hair cut.”でも、文脈によっては(例えば、寝ている間に友人が悪ふざけで、のような文脈ならば)下の「受動・被害」の意味になるかもしれません。

(受動・被害)I had my wallet stolen. (財布を盗まれた。)

※さらに,have(get)+目的語+過去分詞が完了(…してしまう)を表すことがあります。

Have your work done by noon. (昼までに仕事をやってしまいなさい。『新英和中辞典』第7版, 研究社, 2003年)

※letやmakeの受動態について上で言及しました。使役動詞のhaveは受動態にならないとされます。

get

get+目的語+to 不定詞で、「…させる」、「…してもらう」、「…するように説得する」などの意味を表します。目的語の後ろに原形不定詞ではなくto不定詞が来る点に注意が必要です。

I couldn’t get the DVD player to work. (DVD プレーヤーがどうしても動かなかった。)(『ジーニアス英和辞典』大修館書店, 第5版, 2014年)

You’ll never get me to agree. (僕を同意させることは絶対にできないだろう。『新マスター英文法』聖文新社,2008年,p.645)

help

help+目的語+原形不定詞(またはto 不定詞)で「人が…するのを助ける、手伝う」という意味を表します。目的語の後ろは原形不定詞も、to不定詞も両方OKである点に注意が必要です。

His advice helped me (to) get the job. (彼の助言が私の就職に役立った。)

…もまた~ない:nor,either,neither

norという単語を目にした場合、反射的に「…もまた~ない」という意味を思い浮かべる方が多いかと思います。それで正解です。一方、「eitherにも「…もまた~ない」という意味があるんじゃなかったっけ?」と思う方もいるかもしれません。それも正解です。

以上は多くの方が思いつくかもしれませんが、nor, either, neither(norと一緒によく用いられますね)それぞれの使い方について、正確に説明できますか?本エントリーではそれらについて整理します。

※nor, either, neitherは、深掘りすると、かなり細かい事項も出てきます。以下では「…もまた~ない」に関する主な意味・用法を中心に、主に基本事項について解説します。

nor

接続詞で、「AもBも…ない」「…もまた~ない」の意味を表します。以下のパターンがあります。

1. (neither または not と相関的に用いて)AもBも…ない

He neither drinks nor smokes. (彼は酒も飲まなければたばこも吸わない。)

She is neither tall nor short. (彼女は背が高くも低くもない。)

※「either A or B (AかBのどちらか)の否定文と同義」です。

He doesn’t either drink or smoke. (“He doesn’t drink or smoke.”も可)

She isn’t either tall or short.  (“She isn’t tall or short. ”も可)

※上の見出しに「neitherまたはnot」と書きましたが、notとnorが相関的に用いられるケースとは、例えば次のような場合です。

Not a man, a woman, nor a child, is to be seen. (男も女も子供も見えない。『新英和中辞典』研究社, 第7版, 2003年.強調、当サイト管理人)

※マニアック?ですが、neither more nor less than(…というほかはない、まさしく…)という慣用句を紹介しておきます。

It is neither more nor less than absurd for him to try to bribe me. (彼が私を買収しようとするなんてばかばかしいというほかはない。『総解英文法』美誠社,1970年,p.320)

2. (否定の節や文の後に用いて)…もまた~ない

この用法では,norの後に(助)動詞と主語の倒置が起きます。

He hasn’t arrived, nor has his wife. (彼は着いていませんが、奥さんもまだです。)

I never saw him again, nor did I regret it. (私は二度と彼とは会わなかったし、それを悔やみもしなかった。)(『ルミナス英和辞典』研究社, 第2版, 2005年)

→「1.」、「2.」それぞれの見出しに書いたとおり、上の例では、neitherやnotと一緒に用いたり、否定の節・文の後に用いて、norは「…もまた~ない」などの意味を表しています。したがって、ある問題文が意味のうえで否定的な内容であっても、上の形に該当しなければ、norを選ぶべきではありません。

Lack of money made it difficult for him to buy food or drink. (お金がなかったので、食べ物や飲み物を買うのは彼には難しかった。)

もしこの例でorが空所になっており、選択肢にorだけでなくnorがある場合、意味的にnorを選びたくなるかもしれませんが、そうではなくorが入ります。

either

1.形容詞

Either book will do. (どちらの本でもよい。『ロイヤル英文法』改訂新版旺文社,2000年,p. 143)

なお、上の場合、Eitherは不定冠詞相当語です。さらに不定冠詞をつけてEither a bookとする必要はありません(そのように書くと誤りです。ただし、下記「3.」のeither A or Bの用法で、たまたまeither a book or a journalなどの形になる場合はあります)。

2.代名詞

Either of the two books will do. (二つの本のどちらでもよい。)

3つ以上のものについてはanyを用います。当サイト管理人の個人的感覚ですが、このあたり、ややこしいですが、一つ一つ覚えていきましょう。

Any of the three books will do. (三つの本のどれでもよい。)

3.副詞

次に、副詞(either A or Bの用法は接続詞とみなされることもあります)のeitherについて解説します。まずお決まりは,either A or Bで「AかBのどちらか(どちらでも、 いずれかを)」です。もしうろ覚えでしたら、both A and B(AもBも(両方とも))や上記「1.」のneither A nor B(AもBも…ない)など(※)とセットで必ず覚えましょう。

※本エントリーのテーマからはそれますが、各参考書や文法書には、not only A but  (also) B (AだけでなくBも)なども載っていますね。

本題に戻ります。副詞のeitherは、否定文で「…もまた~ない」の意味を表すことができます。「…もまた~ない」という日本語だけ暗記しているとnorの用法と混乱して覚えづらいので注意が必要です。例文を見てみましょう。

例1:“I don’t like dogs.” “I don’t either.” (「犬が好きではない。」「私もだ。」)

上の例文の第2文でNorを使いたい場合、“Nor do I.”と言い換え可能です。“Neither do I.”や“Me neither.”, “Me either.”, “Nor I either.” とも言い換え可能です。eitherもnorも「…もまた~ない」の意味を表すわけですが(上の例では「私も好きではない」、「私もそうだ」(※)といった訳になります)、形の違いを押さえたいところです。

※「私もそうだ」は、肯定とも否定とも取れる表現ですが、この場合は否定の意味で「私もそうだ」です。曖昧さをなくしたい場合は「私も好きではない」と訳す方がよいでしょう。

『新英和中辞典』(研究社, 第7版, 2003年)には、norとeitherが同じ文の中で使われる、次の例文も載っています。

例2:“I won’t go.” “Nor I either.” (「私は行きません。」「私も行かない。」)

この例文の第2文は、例1と同様、“I won’t (go) either.”や“Nor will I.”, “Neither will I.”, “Me neither.”, “Me either.” と言い換え可能です。

neither

1. 形容詞で「どちらの…も~でない」

Neither answer is good. (どちらの答えも良くない。)

上の例文からも分かりますが、この用法ではneitherは単数名詞を修飾します。日本語だけで考えると、「「どちらも…ない」なのに単数名詞なの?」と混乱しやすいので注意が必要です。

さらに、上の例文のような場合、“Either answer is not good.”とは言わない、という点にも注意が必要です(2023.08.28追記:この点は『新英和中辞典』(研究社, 第7版, 2003年)を参照して書きました。ところがネットを検索すると、上の言い方はけっこうたくさんヒットします。本来の正しい英語とはいえないが、現在、実際は用いられる場合もある、といったところでしょうか)。

2. 代名詞で「どちらも…でない」

I believe neither of the stories. (どちらの話も私は信じない。)

bothの対極(※)であるといえます。上の例文は、“I believe both of the stories.”と正反対の意味になります。“I don’t believe either of the stories.”といってもいいです。似たようなことを上にも書きましたが、当サイト管理人の個人的感覚では、このあたり、ややこしいというか大変ですが、一つ一つ覚えていきましょう。

※『ロイヤル英文法』(改訂新版旺文社,2000年,p. 230)は「neitherはbothの否定である」としています(同旨、『英文法解説』改訂3版,金子書房,1991年,p.67)。一方、『新マスター英文法』(聖文新社,2008年,p.176)は「neitherはeitherの否定である」としています(同旨、『総解英文法』美誠社,1970年,p.153)。この点に関しては、後者が正しいように思います。both(両方とも)を否定するには、両方とも否定する必要は必ずしもなく、少なくとも一方を否定すればよいからです。それに対して、either(どちらか一方)は、「どちらも…ない」と指摘されれば、否定されます。つまり「neitherはeitherの否定である」が正確な解説のように思います。

3. 副詞(3.1は接続詞と見なされることもあります)

3.1 (norと相関的に用いて)AもBも…ない

→これについてはnorの箇所を参照してください。

3.2 (否定の文や節のあとに用いて)…もまた~ない

eitherの箇所で既にチラッと登場していますが、「neither+be(助)動詞+主語」の順になります。例を示せば次のとおりです。

“I’ve never been to Germany.” “Neither have I.” (「私はドイツへ行ったことがありません。」「私もありません。」)

“I can not dance well.” “Neither can I.” (「うまく踊れないよ。」「私もだよ。」)

上の例の第1文は,“Nor have I.”や“I haven’t either.”, “Me neither.”, “Me either.”, “Nor I either.”と言い換え可能です。第2文は、“Nor can I.”や“I can’t either.”, “Me neither.”, “Me either.”, “Nor I either.”と言い換え可能です。

for fear (that), in case, lest

for fear (that), in case, lestは高校生用の参考書にも出てきますが、意味合いや用法は三者同一ではなく、覚えづらいです。本エントリーではこれらについて整理したいと思います。

for fear (that)

「…しないように」、「…するといけないから」、「…するのを恐れて」

Take your umbrella with you for fear it should rain. (=Take your umbrella with you for fear of rain. 雨が降るといけないから、傘を持っていきなさい。)

fearの導く節ではshouldやmight, さらにはmay, will, wouldも用います。

「…しないように」という日本語にひきずられてnotを入れてしまわないように注意が必要です(下記のlestも同様)。

Take care for fear you should catch cold. (風邪をひかないように注意してね。)
(×Take care for fear you should not catch cold.)
(なお、次のとおり言い換え可能です:Take care not to catch cold.)

※lestやin caseと比較して、「…するのを恐れて」という意味合いがあります(fearは名詞で「恐れ、恐怖、不安、心配」、動詞で「恐れる、怖がる、ためらう」などの意味ですね)。以下のように、物騒な例文がオンライン辞典に載っています。

I had to run away for fear (that) he might one day kill me.
(Oxford Learner’s Dictionaries. https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/ ,  (accessed 2023-08-26).)

She finally ran away for fear that he would kill her.
(Longman English Dictionary Online. https://www.ldoceonline.com/ , (accessed 2023-08-26).)

 in case

1.「…するといけないから」、「…の場合に備えて」

Take your umbrella with you in case it rains.(イギリス英語ではin case it should rain. 雨が降るといけないから、傘を持っていきなさい。)
(=Take your umbrella with you in case of rain.)

in case の導く節では直説法を用います。すなわち、主語の人称・数・時制によって動詞の形が決まります。節中に should を用いる場合もあり、その場合、続く動詞は原形です。

lest, for fear (that) に比べてくだけた言い方(口語的な言い方)です(※※)。ただし、節中に should を用いる場合は堅い口調になります。

※※in caseの導く節は上記のとおり直説法であり、下記のlestの場合よりも日本人にとって分かりやすいような気がします。また、for fear (that)やlestと異なり、「…しないように」という日本語にひきずられてnotを入れてしまわないように注意、ということもありません。これらを考えると、for fear (that)やlestよりも、日本人にとって使いやすいようにも思います(すなわち、for fear (that), in case, lestのうち、とりあえずin caseを覚えておけば、英会話などで活用しやすいようにも思います)。

2.アメリカ英語では、in caseをifの意味で用いる場合があります。たとえば、以下の2つ目の例文は、「彼に会うといけないから」「彼にあった場合に備えて」とはなりませんので、そうしたin caseの用法(上記「1」)とは区別して覚える必要があります。

In case anything happens, call me immediately. (もし何かあったら、すぐに私に電話をください。『ロイヤル英文法』旺文社,改訂新版,2000年,p. 622)

In case you see him, give him my regards. (もし彼に会ったら、よろしくといってくれ。『現代英文法講義』開拓社,2005年,p.608)

lest

「…しないように」、「…するといけないから」

Take your umbrella with you lest it rain.(またはlest it should rain. 雨が降るといけないから、傘を持っていきなさい。)

lest の導く節では仮定法現在(=形としては動詞の原形)を用います。主にイギリス英語で改まった言い方の場合、shouldを用います。

「…しないように」という日本語にひきずられてnotを入れてしまわないように注意が必要です(上記のfor fear (that)も同様)。

Take care lest you catch cold. (風邪をひかないように注意してね。)
(×Take care lest you do not catch cold.)
(なお、次のとおり言い換え可能です:Take care not to catch cold.)

than any otherの次は必ず単数形か?複数形も許容されるか?

当サイトは通常、白黒をはっきりさせるエントリー(「この点はこうなので、間違えないよう注意しましょう」のようなエントリー)を投稿しています。ですが今回は、「この点は文献ごとに異なります」という投稿をあえてしてみます。すなわち「than any otherの次は必ず単数形か?複数形も許容されるか?」です。

そもそも、形容詞としてのother(ほかの、別の)は名詞の複数形を直接修飾するか、または、no、any、some、one、theなどの冠詞もしくは冠詞相当語を伴って名詞の単数形や複数形を修飾します(※)。例えば次のとおりです(otherには形容詞用法のほかに代名詞用法などがありますが、本エントリーでは形容詞用法に絞ります)。

other people(ほかの人たち)
three other girls(ほかの3人の少女)
some other time(いつかまた)

※冠詞もしくは冠詞相当語を伴わず、 単数形を直接修飾するときには another を用います。anotherの原義は「もう一つの(an)別の(other)」です。

本エントリーでは、上記のとおり、than any otherについて考えてみたいと思います。

『新英和中辞典』(第7版,研究社,2003年)や『ジーニアス英和辞典』(第5版,大修館書店,2014年)のotherの項には、“Any other question(s)?”、“Do you have any other question(s)?”という用例が載っています。また、Googleを“any other question”で検索しても、“any other questions”で検索しても、膨大な件数がヒットします(半角のクォーテーションマーク(二重引用符) 「 “” 」でキーワードを囲んでGoogle検索をすると、入力したキーワードの順番で完全一致検索ができます)。any otherの次には単数形が来ることも、複数形が来ることも、どちらもあるようです。

ところが、単にany otherでなくthan any otherとなると、文献によって論調が異なります。『総解英文法』(美誠社,1970年,p.313)は、than any otherの次は単数名詞だと明記しています。

一方、上記『新英和中辞典』の、“Mary is taller than any other girl(s) [the other girls] in the class.”という用例の箇所には、「any other に続く名詞は単数を原則とする」とあります(引用箇所の太字は当サイト管理人による。以下同様)。

上記『ジーニアス英和辞典』でも、“I like roses better than any other flower.”という文を説明する箇所で、次のとおり述べています。

… than any of the other flowers. との混同で× … than any other flowers. ともいうことがあるが, 誤りとされる. than any other の後では単数名詞を使うのがよい

ちなみに、ビートルズの歌にも次のような一節があります。「ほかの男」は複数いそうなものですが、than any otherの次は単数形guyを用いていますね。

If I were you I’d realize that I love you more than any other guy(“No Reply”)
(当サイト管理人の訳:もし僕が君だったら、ほかのどの男よりも君を愛していると気づくのに。→僕より君を愛している奴なんかいないよ。)

以上の文献を読むかぎり、基本的には、than any other に続く名詞は単数形が正しいといえそうです。ただし『新英和中辞典』や『ジーニアス英和辞典』は、「を原則とする」、「ともいうことがある」と述べており、複数形を絶対に否定しているとまではいかないように見えます。

論調がさらに異なる文献もあります。『ロイヤル英文法』(改訂新版,旺文社,2000年,p.368)は、“Exxon-Mobil is bigger than any other company in the world.”という例文の後で、次のとおり述べています。

くだけた言い方ではthan any other companiesのようにany otherの後に複数形を用いることもある。

『現代英文法講義』(開拓社,2005年,p.577)に至っては、次のとおり、than any other+複数形の用法を認めています。

主語が複数の場合は,「any other+複数名詞」になる.
American farmers produce more individually than any other farmers in the world.
(アメリカの農場主は、世界のほかのどの農場主よりも個人個人の生産性が高い)

実際、“than any other”でGoogleを検索すると、英語で書かれたページで、than any otherの次に複数形を用いているページも見つかります。それが英語として正しいかどうかという点については、以上のとおり、文献ごとに見解が異なります。

本エントリーは、『公式TOEIC Listening & Reading 問題集6』(国際ビジネスコミュニケーション協会, 2020年)「TEST1 PART5」の120(p. 43)にヒントを得て、解説しようと考えた事項です。than any otherの次に来るのは単数形か?複数形もOKか?がそこで直接問われているわけではなく、問題を解くのには支障がない構成になっていますが、興味深いので取り上げる次第です。

all, each, everyとそれらに続く名詞の単数/複数の区別など

「全ての」を英語でいうと?と聞かれれば、allやeveryが思い浮かぶのではないでしょうか。形容詞としてのall, every(さらにeachも)に続く名詞は単数形でしょうか、複数形でしょうか、即答できますか?また、代名詞としてのallやeachは単数扱いか、複数扱いか(それらの次に来る動詞に三人称単数現在のsが付いている場合はあるか/ないか)、説明できますか?本エントリーではそれらについて解説します。

はじめに:時間のない方へ、ポイントの超・要約

形容詞用法のall, every, eachの中からどれかを選ぶ設問の場合、複数形を修飾するのはallのみです。everyとeachの後には単数形が続きます(ただし、例えば代名詞用法の場合など、より詳しく学ぶべき事項もあります。それらについてはこのエントリーの後続の記述も参考にしてください)。例えば、空所に入る語として適切なのはどちらでしょうかと、次の問題があるとします。

“all, each, everyとそれらに続く名詞の単数/複数の区別など” の続きを読む

受動態の分詞構文はhaving beenも省略可能

分詞構文には単純形と完了形があり、後者の場合、文の述語動詞の表す時よりも前の時を分詞構文は表します。

単純形の例:Drinking coffee, Mr. Kato watched television. (コーヒーを飲みながら、加藤氏はテレビをみた。)

完了形の例:Having drunk coffee, Mr. Kato watched television. (コーヒーを飲んでしまってから、加藤氏はテレビをみた。)

より正確に書くと、単純形でも時間の前後関係を表すことはできます

Opening the bottle, he poured the wine into my glass. (びんのせんを抜くと、彼は私のグラスにワインをついだ。『ロイヤル英文法』改訂新版,旺文社,2000年,p.521)

上の例文で、「びんのせんを抜く」が時間的に前、「ワインをついだ」が時間的に後です。信頼できる文法書『ロイヤル英文法』は上の例文を挙げつつ、特に強調したり、意味が曖昧になったりしないかぎり、ある動作の後にほかの動作が続くとき、はじめの動作を分詞にして前に出す際、完了形にする必要はない旨を述べています(同上)。

言い換えると、完了形の分詞構文は、分詞が表す時が、文の述語動詞が表す時より前であることをよりはっきり示す、といえます。

また、分詞構文には受け身の動作や状態を表す受動態の分詞構文があります。“being+過去分詞”が用いられ、beingは、文頭に来る場合、省略することができます

(Being) Written in plain English, this book is suitable for beginners. (分かりやすい英語で書かれているので、この本は初心者に適しています。)

本エントリーの本題はここからです。 “受動態の分詞構文はhaving beenも省略可能” の続きを読む

名詞の繰り返しを避けるthat, those(that of, those ofなど)

代名詞のthat(thatには形容詞や副詞、接続詞の用法もありますが、ここでは代名詞に話を絞ります)の用法の一つに、名詞の繰り返しを避けるthatの用法があります。that ofの形になることが多いです。注意点を以下に整理します。

1.比較の対象をそろえて明確にする(何と何の比較かを明示する)働きがある

The population of Tokyo is larger than that (= the population) of Osaka. (東京の人口は大阪よりも多い。)

日本語の場合は「東京の人口は大阪よりも多い」で意味が通じますが、英語では、「東京の人口」と「大阪のそれ」(大阪の人口)を比較するために、上のような文になります。すなわち

The population of Tokyo is larger than Osaka.

もし仮に上のような文にすると、「東京の人口」と「大阪」を比較することになってしまいます。もっと唐突な例で説明すれば、「青森県のリンゴと長野県のリンゴの比較」は意味を成すでしょうが、「青森県のリンゴとフランクリン・ルーズベルト大統領の比較」といわれても意味不明(何を尺度に、どのような点を比較したいのか、分からない)だと思います。そのため、第一文のようにthat (= the population) ofを入れて、比較の対象を「人口」同士にそろえます。

※もし、英語を母語としない日本人が、ネイティブとの会話で、“The population of Tokyo is larger than Osaka!”と力説した場合、勢いと気合で&相手もこちらの意図を推測してくれて、ひょっとしたら通じてしまうような気もします(※※)が、当サイトは、正確な英語の解説にあくまで努めます。

※「対等のもの同士を比較する」は、名詞の繰り返しを避けるthatの用法だけでなく、比較級全般にいえます。次の例文をご覧ください。日本語では「彼女の給料は夫より高い」などで意味が通じますが、英語では以下のようになります(※※)。

Her salary is higher than her husband’s . (×than her husband. 彼女の給料は夫より高い。)

Her smile is more friendly than Jane’s.(×than Jane. 彼女の笑顔はジェーンよりもフレンドリーだ。)

※※この点は意外と深いかもしれません。『英文法解説』(改訂3版,金子書房,1991年,p.172)に、以下の解説があります。

これは日本語との関連で日本人に独特の問題かと思っていたが、英米人用の学習文法書にもでているので、英米人にも必要な注意なのであろう。

2.itとの違い

大学受験英語などでよくある質問が(当サイト管理人も、大学院生時代に予備校の非常勤講師をしていた際、受けた質問です)、「大阪のそれ」なのだからthatじゃなくitでもいいのではないでしょうか?というものです。

答えはNoです。もしitをここで使うと、前に出た特定のものを指すのがitの原則の一つなので、「東京の人口は、大阪の東京の人口よりも多い」のような意味(「意味」といってよいのか?)になってしまいます。

3.複数の場合はthose of

The rules of this sport are simpler than those of baseball. (このスポーツのルールは野球のそれより単純だ。)

なお、those ofで「…の人々」を表す場合もありますので注意してください。例えば

those of Asian ancestry

で「アジア系の人々」です。この場合のthoseはpeopleやpersons, individualsを表しています。

4.that[those]の後はofだけとは限らない

The dialect spoken in this town is different from that (=the dialect) spoken in the next town. (この町で話されている方言は、隣町で話されているものとは違う。『ロイヤル英文法』改訂新版,旺文社,2000年,p.200)

The houses around here are larger than those in my town. (このあたりの家は私の町の家よりも大きい。『新マスター英文法』聖文新社,2008年,p.637)

I prefer these paintings to those by great masters. (私は大家の絵よりもこういった絵のほうが好きだ。同上,p.637.当サイト管理人注:prefer(…よりも~を好む)の場合は,このように,thanでなくtoを用いることにも注意)

The students from Brazil speak English better than those from Japan. (ブラジルから来た学生の方が日本から来た学生よりも英語を上手に話す。)

5.次にofが来るときはthat[those]の方が好まれるが、原則的に、thatはthe oneに、thoseはthe onesに言い換え可能

ただし、(1)繰り返す名詞が不可算名詞の場合、oneは使えません。thatを用います。不可算名詞すなわち数えられない名詞なので、one(「一つ」)で受けるのは変だからです。

The poverty of the soil here is worse than that of the next town. (ここの土地の劣悪さは、隣町よりひどい。)

(2)繰り返す名詞が人間の場合、thatは使えません。the oneを用います。

The man I saw was older than the one you met. (私が会った男性は、あなたが会った男性より年を取っていた。)

thisやthatが人を指す代名詞として用いられないことについては、『ロイヤル英文法』(改訂新版,旺文社,2000年)197ページに有用な解説があります。同書は、

Come and meet these over here. (「こっちに来て、こいつらに会いなよ」とでもなりましょうか)

は、軽蔑の表現になることがあるとしています。

ただし、

This is Mrs. Jones. (こちらはジョーンズ夫人です。)

That looks like Tom. (あれはトムみたい。)

Come and meet these people over here. (こちらに来てくれ、この人たちを紹介するよ。)

のように、文の主語になる場合や、形容詞として名詞の前に用いるのは差し支えないと説明しています。また、「3.複数の場合はthose of」で述べたとおり、those ofで「…の人々」を表す場合もあります。

比較級に定冠詞theが付く場合

※2023.09.06追記:旧エントリー「最上級の直後のever」の内容は、このエントリーおよび以下のエントリーに、大きく加筆しつつ、整理・統合・分割しました。最上級の直後のeverについては、このエントリーの最後に解説しています。

名詞の繰り返しを避けるthat, those(that of, those ofなど)

絶対比較級って知ってますか?

er, estの比較変化をする語にmoreを使う場合:同一の人や事物の比較

最上級に定冠詞theが付かない場合

2つの人や事物を比べて、一方がもう一方よりも程度が高い/低いことを表す比較級は、“A is … er [more …] than B.”(程度が低いことを示す場合は“A is less 原級 than B.”)が基本です。

その比較級に定冠詞theが付く場合があります。本エントリーでは、この点について整理します。

1.「2者のうち一方のほうがより…」

「2者のうち一方のほうがより…」の意味の場合、以下の例のように、the+比較級の形を取ります。

Who is the stronger of the two? (2人のうち強いのはどちらだ?)

Which is the less famous of the two? (2つのうち人気がないのはどちらだ?)

日常的な文では最上級が使われることもよくあるとされます(『英文法解説』改訂3版,金子書房,1991年,p.174.同旨、『ロイヤル英文法』改訂新版,旺文社,2000年,p.361)。

Who is the strongest of the two?

なお、「2者のうち一方」でなく、会話で、“This way, it’s more easier to see.” (こうすればもっと見やすい)のように、erにさらにmoreを付ける例を見かけることもありますが、非標準で無教養と非難されることが多いので避けるべきだと『ロイヤル英文法』(改訂新版,旺文社,2000年、p.350)が指摘しています。

2.the+比較級、the+比較級

「the+比較級、the+比較級」で、以下のように、「…すればするほど~」という意味を表します。

“I should prepare for the entrance examination.” “The sooner, the better.” (「入試の勉強をしなきゃ。」「早ければ早いほどいいよ。」)

The more you have, the more you want. (多くのものを持てば持つほど、ますます欲しくなる。)

『ロイヤル英文法』(改訂新版,旺文社,2000年,p.361)などは、「the+比較級」単体でも「それだけ一層…」の意味になる点を指摘しています。

I was the more upset because he blamed men for the accident. (彼がその事故を私のせいにしたので、私は余計ろうばいした。)

なお、“The more you study, the more easy it is to pass the examination.”(勉強すればするほど,試験に受かりやすくなるよ)のように、通常er形になる語(この場合はeasy)も、moreを付けた形になる場合があります(不規則変化をする語を除く)

3.the+比較級+because[for]…

「the+比較級+because[for]…」で、以下のように、「…なので一層~」という意味になります。

I love him all the more for his weakness. (彼に弱さがあるから、いっそう彼が大好きです。この例のように、強調の副詞allが付くことが多いです)

※上の例文を書くために、いろいろ辞典を引いたわけですが、“We all have our own little weaknesses.” (我々にはだれにでもちょっとした欠点があるものだ。『新英和中辞典』第7版,研究社,2003年)という用例に出会いました。littleが複数形を修飾しているわけです。こういう使い方もあるのかと思い,“little weaknesses”でGoogle検索すると、まあまあ多数のヒットがあります。検索をした時点では、YouTube動画なども含め、楽曲のタイトルとおぼしきものも含まれていました。

次はlittleを辞典で引いてみると、“little chairs”(小さな椅子)や“our little ones”(うちの子どもたち)などの用例がふつうにあります。これは、当サイト管理人にとっては盲点でした。単に、当サイト管理人の英語力がまだまだなだけかもしれませんが、勉強することは無数にあるなあと感じます。

なお、none the worse forで「…にもかかわらず変わらない」です。直訳は「…だからといって、いっそう悪くなった、ということはない」ですが、慣用的に先のように訳します。

He was none the worse for drinking much alcohol. (彼は大量の酒を飲んだが、なんともなかった。)

ちなみに:muchとtheの位置関係など

以下、連想される話題ということで、紹介します。比較の単元で定冠詞theといえば、最上級を連想する人がやはり多いと思います(ただし、最上級には定冠詞がつくと頭から考えるべきではなく、最上級と定冠詞theの有無にはさまざまなパターンがある点は、最上級に定冠詞theが付かない場合を参照)。その最上級はmuch, by far, far, far and away, very, everなどで次のように強調することができます(※)。それぞれ、the very bestやmuch the bestなどの語順になることに注意してください。

This is the very best of his work. (これは彼の作品のうちまさに最高のものだ。)

He is much the best player on the team. (彼はチームで最高のプレーヤーだ。前置詞onが使われ、on the teamという表現であることにも注意。onでなくinも用いられる(※※)

He is by far the best player on the team. (同上。)

He is the best player by far on the team. (同上。こういう語順がある点に注意)

He is the greatest poet ever. (彼はこれまでで最も偉大な詩人だ。(※※※))

That book was his best ever. (=That was the best book that he had ever written. その本は彼の生涯最高の傑作だった。『ジーニアス英和辞典』大修館書店,第5版,2014年.強調、当サイト管理人(※※※))

※何冊もの文法書を参照してこのエントリーを書いているわけですが、『英文法解説』(改訂3版,金子書房,1991年,p.180)のみ、最上級の意味を強める語句としてはby farが最もよく使われると指摘しています。

※※2023.08.26追記:辞典やネットを調べましたが、“He is a member of the team.”(彼はチームのメンバーです)のように、前置詞ofを用いた、a member of the teamいう表現も一般的に広く使われるようです。ただし、「最上級の後で、単数形とともに、場所や集団を指して」という条件下ではofは避けられるという意見を目にしました。
参考:https://englishwordsvocabulary.quora.com/Which-sentence-is-correct-He-is-the-best-player-in-the-team-or-He-the-best-player-of-the-team

※※※上記のように、everには、最上級の後について、それを強める用法があります。「これまでで、今までで」のような意味を成します。比較級の前後でも用いられる場合があります。その場合は「さらに一層、ますます」の意味になります。

It’s raining harder than ever. (雨がさらに一層激しく降っている。『新英和中辞典』第7版,研究社,2003年)

many more+複数名詞とmuch more+不可算名詞

絶対比較級って知ってますか?でも触れたように、通常、比較級の強調にはmuchなどがよく使われます。大学受験などでも頻出の事項で、ひっかけの選択肢がmanyやveryだったりします。下の例文で、muchは比較級more beautifulを強調しています。

She is much more beautiful than her mother. (彼女は母親よりずっと美しい。)

そのため、many more+複数名詞という形もあると聞くと、戸惑うというか、意表を突かれる方も多いと思います。例えば以下の2つ目や3つ目の例文のように、「ずっと多くの」の意味を表します。

There were five more applicants than the job openings. (空きポストより5人多くの応募者がいた。)

There were many more applicants than we had expected. (予想よりずっと多くの応募者がいた。)

I rate this restaurant five stars (many more in fact)! (このレストランに五つ星を付けます(実際は五つ星じゃ全然足りないですけど)!)

※「五つ星」は、上の“five stars”のほかに、“five-star”や“five-star rating”という言い方もあります。以下のように、同じパターンでいろいろな表現がありえるわけです。“a five-star hotel”や“a five-year-old girl”などは、「不定冠詞(a/an)+数詞+ハイフン(“-”)+単数名詞」という形です。

当サイト管理人の個人的な思い出ですが、大学院生時代、英語非常勤講師募集の求人を某大手予備校が出していました。1次試験が筆記、2次試験が面接でした。1次試験の問題にこの事項を問うものが出ていました。この事項に関しては、英語を教える側の先生も、ちゃんと勉強していないと、“five years old”と“a five-year-old girl”など、以下のような区別ができなくなってしまいます。予備校の採用試験ではそこを突いてきたのですね。

This hotel is five stars. (このレストランは五つ星です。)

This is a five-star hotel. (これは五つ星のレストランです。)

She is five years old. (彼女は5歳です。)

She is a five-year-old girl. (彼女は5歳の少女です。)

話が広がりました。many more+複数名詞に話題を戻します。不可算名詞には量を表すmuchが付きます。この形なら、「名詞を修飾する形容詞の比較級の強調」(すなわち「much+形容詞の比較級+名詞」。例えば“This is a much more beautiful flower than that.”など)と似てきます。が,今話題にしているのは「much more+不可算名詞」であり、やはり、ちょっと特殊な形です。

これらのmanyやmuchはfarやa lot,wayなどと置き換え可能です。日本でふつうに学校の勉強だけしていると(学校で習う英語も、ちゃんと勉強すれば、かなりのところまで身に付きますが)、最後のwayなんかは珍しいかもしれませんね。

I need much more money. (私はずっと多くのお金が必要だ。)

I need a lot more money. (同上)

I need a way more money. (同上)

絶対比較級って知ってますか?

絶対比較級とは

比較の対象をはっきり示さないで、あるものを漠然と2つに分けて、そのうちの程度の高い方を表す形容詞の比較級の用法絶対比較級といいます(絶対最上級については最上級に定冠詞theが付かない場合を参照してください)。

もう少し詳しく理解するために、専門的な文法書を見ておきたいと思います。

『英文法総覧』(改訂版,開拓社,1996年,p.351.強調、当サイト管理人)は、絶対比較級を、「比較の意味をもたず、問題となっている対象が、ある性質を「どちらかといえば比較的多く」持っていることを表す、一種の「ぼかし表現」である」としています。同書はdresses for larger women(大きめの御婦人用洋服)を例に出し、それが「dresses for large womenよりも、ずっと柔らかな表現」だと述べています。

『現代英文法講義』(開拓社,2005年,p.574.下線、当サイト管理人)は次のとおり指摘しています。

年配の人は、old manと呼ばれるのはいやがるが、older manと呼ばれるのには異議を唱えないかもしれない。olderは、oldほど年とっていないように思われるからである。(中略)原級を用いた表現より丁寧な印象を与える。商業関係者が絶対比較級を多用するのは、この効果のためである

上の引用箇所で下線を引いたうち、「olderは、oldほど年とっていないように思われる」は、英語を母語としない日本人にはちょっと分かりづらいようにも思います。この点について、『ロイヤル英文法』(改訂新版,旺文社,2000年,p.364)は、the younger generationという表現は、1つの世代(generation)を大きく2つに分け、若い方をyoungerで示すものであり(年配の方はolder)、その大きな分け方であるthe younger generationに含まれる一部がthe young generationである旨を解説しています。

この解説に従って考えると、the young generationの方がthe younger generationより若いことになります。同様に、the old generationの方がthe older generationより年を取っていることになり、上記『英文法総覧』や『現代英文法講義』の説明が一層理解できます。デパートの売り場の看板やポップは、絶対比較級になりそうです。

絶対比較級の特徴

絶対比較級には次の特徴があります。

1.than…の形を取らない。

People worry about the rising cost of higher education. (人々は高等教育の費用の値上がりを懸念している。)

2.名詞の前に置かれることが多い。

The education he received is higher.

よりも

He received a higher education. (彼は高等教育を受けた。)

の方が自然。『ロイヤル英文法』(改訂新版,旺文社,2000年,p.364)は“This is a higher class hotel.”(ここは高級ホテルです)は正しく、“The class of this hotel is higher.”は誤りだと言い切っています。

3.muchなどで強調することができない。

通常、例えば以下のように、比較級の前にはmuchなどを付けて強調することができますが、絶対比較級の場合はそれが不可とされています。

Mike is much stronger than Tom. (マイクはトムよりずっと強い。)

参考:通常、比較級の強調や修飾に使われる語句の例

much, very much(←比較級の強調はveryではなくmuchですと最初は習うとと思いますが、very単体ではなく、このようにvery muchという形もあることに注意), far, by far, far and away, a lot, lots, even, still, a good deal, a great deal, a bit, a little bit, considerably, rather, somewhat, any, no, way, many more+可算名詞, much more+不可算名詞, ever

比較的珍しいものも上記には含まれています。いくつか例を挙げておきます。

Mike is very much stronger than Tom. (マイクはトムよりずっと強い。上記のとおり、very単体ではなく、このようにvery muchという形もあることに注意)

Mike is somewhat stronger than Tom. (マイクはトムよりいくらか強い。)

Mike is a lot stronger than Tom. (マイクはトムよりずっと強い。)

Mike is stronger than Tom, but George is even [still] stronger than Mike. (マイクはトムより強いが、ジョージはマイクよりさらに強い。)

I can’t wait any longer. (私はもう待てない。)

I can walk no further [farther]. (もうこれ以上歩けない。『新英和中辞典』第7版,研究社,2003年)

4.対になった言い方が多い(本エントリー「絶対比較級とは」参照)。

the younger generation — the older generation (若い世代 — 年を取った世代)

the lower animals — the higher animals (下等動物 — 高等動物)

the upper reaches of a river — the lower reaches of a river (川の上流 — 川の下流)

5.「比較的」、「かなり」と訳す場合も多い。

the brighter side of life (人生の比較的明るい側面←当サイト管理人注:前後の文脈にもよりますが、「比較的」と訳すことができます)