最上級に定冠詞theが付かない場合

英語の最上級について最初に習うとき、the+ estまたはthe+mostという形(最上級には定冠詞theがつく)をとにかく覚える場合が多いと思います。

February is the shortest of all the months. (2月は全ての月の中で一番短い。)

ところが以下のとおり、最上級に定冠詞theを付けない場合もけっこうあります。このエントリーではそれについて整理してみましょう。

1.冠詞相当語

形容詞の最上級が名詞を修飾する場合(すなわち限定用法の場合)にはtheが付きます。上に述べた、最上級を最初に習うときに典型的であろう例です。ただし例外があり、theの代わりに名詞・代名詞の所有格や、thisやthatなどが付く場合があります(冠詞相当語)。文法的には、次の2つの文はどちらも正しいです。

This is the best work of his career. (彼のキャリアの中でこれは最高傑作だ。)

This is his best work. (これが彼の最高傑作だ。)

2.同一の人や事物についての比較

ほかとの比較ではなく、同一の人や事物についての比較を表す形容詞が補語として用いられている場合(すなわち叙述用法の場合)、ふつう(※)、theを付けません(ほかのエントリーでも書きましたが、「同一の人や事物についての比較」って分かりづらいですが、以下を読んでいただければ「こういう話か」とピンと来てもらえると思います)。

This lake is deepest here. (この湖はここが一番深い。)

次のような場合(同一の湖についてではなく、異なる別の湖と比較している場合)にはtheが付きます。上の例文とペアで覚えましょう。

This lake is the deepest in this country. (この湖がこの国で一番深い。)

※上で「ふつう、theを付けません」と書きました。信頼できる文法書『ロイヤル英文法』(改訂新版,旺文社,2000年,p.365)は、アメリカ英語ではtheを付けることもあると述べています。

3.叙述用法の形容詞

「2.」のほかにも、叙述用法の形容詞の場合(すなわち形容詞が補語として用いられる場合)、theを付けないことがあります。

His failure is plainest. (彼の失敗は極めて明白だ。『ロイヤル英文法』改訂新版,旺文社,2000年,p.366. 同書は、この場合の最上級は強意用法であるとしています。)

※当ブログ管理人補足:それでは強意用法とは何かが気になる人もいると思います。あまり聞き慣れない言葉だからです。「意味を強める文章表現の手法」と理解しておけばよいです。

4.副詞の最上級

副詞の最上級にはtheを付けないこともあります(付けることもあります。そのため、以下の例文でtheはかっこ書きになっています。付けても付けなくてもどちらも正しいです)。

Who ran (the) fastest? (誰が一番速く走りましたか?)

5.絶対最上級

「a most+原級+単数名詞」や「most+原級+複数名詞」、または「most+形容詞/副詞」で、比較の対象をはっきり表さず、話し手の個人的感情や意見を示すものとして、程度が極めて高いことを表す用法があり、絶対最上級と呼びます。「超すごい圧倒的な最上級」のことか??と思えるかもしれませんが、「相対的でない最上級」のような意味でしょうね。

この用法では、通常はestの規則変化をする形容詞もmostを用いて最上級を作ります。上のとおり、その際theを付けません。

気づいた人は鋭い!ですが、絶対最上級はveryと同じような意味です。veryよりも固い言い方であるとされます(『ロイヤル英文法』改訂新版,旺文社,2000年,p.367)。

This is a most delicious cake. (これはとてもおいしいケーキだ。)

ただし、ややこしいことに、絶対比較級に不可算名詞を用いる場合はtheが付くのがふつう(付けない場合もある)とされます。また、the … estの形で絶対最上級を表す場合もあります。信頼のおける文法書『ロイヤル英文法』と『新マスター英文法』がそれぞれ次の例文を挙げています。

I owe him (the) deepest gratitude. (彼にはとても感謝しています。改訂新版,旺文社,2000年,p.367)

He showed the greatest patience. (彼は非常な忍耐を示した。『新マスター英文法』聖文新社,2008年,p.327)

6.「たいていの、大部分の」のmost

mostが「大抵の、大部分の」という意味で用いられる場合、その前にtheは付けません。

In most cases, apples are popular. (大抵の場合、リンゴは好まれる。)

参考:most、most of、almostの違いを即答できるか?

7.成句(at last, at long lastなど)

at lastat long last(ついに、とうとう、やっと)などの成句ではtheが付いていません。ただし、上の成句にtheを付したat the lastat the long lastという表現がないわけではありません。“at the last”や“at the long last”でGoogle検索すると多数のヒットがあります。特にat the lastには

at the last minute, at the last moment(直前になって,土壇場で)

という、at lastとは意味の異なる用法があります。

まとめ

マニアックな英語サイト・英語ブログの多くが「短絡的に、最上級にはtheが付くと覚えるのは間違い!」だと指摘しています。また、『英文法総覧』(改訂版,開拓社,1996年,p.355)も「「最上級には定冠詞がつく」というように頭から考えるべきではな」いとしています(強調、当サイト管理人)。実際、上のように整理すると、そのとおりで、最上級と定冠詞theの有無にはさまざまなパターンがあることが分かりますね。

er, estの比較変化をする語にmoreを使う場合:同一の人や事物の比較

英語の比較級には、異なる人や事物同士を比較するのでなく、同一の人や事物を比較する構文があります(「同一の人や事物を比較」って分かりづらいですが、以下を読んでいただければ「こういう話か」とピンと来てもらえると思います)。

This dress is more comfortable than elegant. (このドレスはエレガントというよりは着心地が良い。)

上の文は、異なる2つのドレスを比べているのではなく、同一のドレスについて、エレガントというよりは着心地が良いと述べています(すなわち同一の事物の異なる特性を比較しています)。

This dress is comfortable rather than elegant.

と同義ですね。

この構文にはer, estの比較変化をする語も原則としてmoreを用いるという特色があります。

This dress is more pretty than comfortable. (「このドレスは着心地が良いというよりは可愛い。」→prettyは通常、prettier, prettiestという変化をするが、この例文の場合はmore prettyの形を取る。)

ただし、①than以下の主語+beを省略しない場合、②不規則変化の語の場合は例外です。

①の例:He is wiser than he is clever. (彼は頭がいいというよりも賢い。)

※昔のことであり、どの書籍に書いてあったか失念してしまったのですが(確か、大学受験の参考書か、または、初めて海外に行く前に読んだ英会話本だったように思います)、cleverは優等生的に「頭が良い」、wiseはおばあちゃんの知恵袋的に「賢い」というニュアンスの違いがある、と本で読んだことがあります。

そのことを思い出して、『ジーニアス英和辞典』(第5版,大修館書店,2014年)を引いてみると、以下のとおり解説しています。

wiseは知識や経験が豊かで「賢明である」の意. cleverは《主に英》, smartは《主に米》で, それぞれ頭の回転が速く「利口である」の意だが, 時にずる賢いことも表す.

話が広がりました。戻します。信頼のできる文法書『ロイヤル英文法』(改訂新版,旺文社,2000年,p.362)は、

moreの形の方がよく用いられ,rather thanの方がさらに自然。

と述べています。上の文(“He is wiser than he is clever. ”)よりも

He is wise rather than clever.

He is more wise than clever.

の方が自然、ということですね。ビジネスや受験、資格試験などで英文を書く際,覚えておけば役に立ちそうです。

②の例:This video is worse than useless. (この動画は役に立たないどころか有害である。この動画は有害無益(※)である。)

※またもや話は広がってしまいますが,「有害無益」という表現にdo more harm than goodがあります。覚えておきましょう。

『ロイヤル英文法』はまた、③「原則として比較変化をしない語や名詞などもこの構文では用いられる」として、以下の2つの例文を挙げています(p.363)。以下の2つの例文は、(ほぼ)同一のものをほかの参考書や問題集でも見かけます。何回も暗唱・暗記して頭に叩き込んでおくと良さそうです。

He was more dead than alive. (彼はへとへとに疲れていた。)

※当サイト管理人注:ほかの文法書(例えば『総解英文法』(美誠社,1970年,p.310)は、類似の例文を「彼は半死半生だった」と訳しています。和英辞典を引くと、more dead than aliveを「半死半生の」としているものが複数あります。「へとへと」と「半死半生」ではニュアンスに差があります。よってこの表現は、ともかく頭に叩き込んでおき、英語を読むなどしていて実際に出くわした際にどう訳すか、どう理解するかは前後の文脈も考慮せねばならない、といったところでしょう。

He is more a journalist than a scholar. (彼は学者というよりはジャーナリストだ。)